雪乃琥珀録

独り言とか

先の見えない世界

毎日毎日大量の資料とパソコンに向き合っている。

だから特に話すようなこともなく淡々と時間だけが過ぎていく。

 

自分が特別な人間なんだなんて思っちゃいないし、普通の人に憧れる。

安定した職場で心地いい環境で過ごせればそれでいい。

 

最近は温泉誌の出雲特集を急に6Pも丸投げされて疲労困憊。

ゼロから紙面を作るなんて、初めてのことだから何から始めていいかわからない。

 

大体の構想はできた。

紹介するスポットも調べ上げてまとめた。

これから二週間、私は一人でこの誌面を作らなきゃならない。

 

Eさんが打ち合わせ後にいきなり発した言葉に正直動揺を隠せなかった。

気持ち悪いと思ってしまった。

 

「なんで俺は君にだけ優しいんだとおもう?」

 

こんな他愛もない質問かもしれないけど、夜の世界を潜り抜けてきた私はどうしても見返りを求めらてれいるように感じてしまう。

「好きだから?」「かわいいと思ってるから?」

だから特別扱いするの?

 

それは私にとって迷惑でしかない。

みんなも気づいてる。

圧倒的に私の社内での立ち位置を崩されて行っている。

 

私は

「それはEさんにしかわかりません。私にはわかりませんよ。」

 

それだけ言ってデスクに戻った。

何かがおかしい。

不思議と彼を避けるようになった。

 

ほかの人はEさんに厳しい言葉を浴びせられているところをよく見る。

でも最初は仕事の効率だけの問題だと思ってた。

 

でもたぶんそうじゃないんだろうなと感じてはいる。

 

気持ち悪い。ただそれだけの感情が心に渦巻いている。

 

ただ私は今の職場で安定して長く働きたいだけなのに、彼の好意は私の邪魔をしているってことを本人は気付いてくれない。

私も同じように叱ってほしい。

同じように接してほしい。

じゃないと社内のせっかく固まっているヒエラルキーが崩壊するんだ。

それももうたくさん経験してきてしまったからわかってる。

 

いままではそれでよかった。個人事業だから。

気に入られれば相手に付け込んで商売をする、それが私の仕事だったから。

 

でも今は違う。

会社という組織の中で「新人」という枠で雑用とかを押し付けられているぐらいで丁度調和がとれている。

 

女性が大半を占めるこの会社で、誰かが彼の行為について言及し始めたら私の平凡な生活は終わってしまう。

 

「期待の新人だから」

「君は優秀だから信用してるから」

 

それらはいまのところ邪魔にしかならない。

 

私はもともとやっていた仕事をこなしているだけで初心者じゃないからわかる。

でも同期にも同じように接してほしいのだ。

 

そこで生まれるのは嫉妬であったり、皮肉であったりする。

それも十分学んできた。

 

ここでは長く続けたいと思っているのに、どうしていいかわからない。

極力かからわないようにすることぐらいしか思いつかないのに、関わらなければ仕事が進まない。会社全体の進捗を乱してしまうから。

 

たぶん女性陣から使えない子、でもやめさせられない子というレッテルを貼られるのにそこまで時間はかからないと思う。

まだ務めだして一か月経っていないのに、もう暗雲が立ち込めている。

 

女は怖いのだ。

それは自分が一番よく知っている。

蹴落として蹴落とされて、そこはどこの世界でも変わらない。

ただ上司が男性というだけでそれは大きく左右されていく。

 

愛想を振りまいているわけでもない。

思わせぶりな行動をしているつもりもない。

私は私なのに私を見てくれるひとがいない。

 

同期との差は埋まらない。

彼女は今日も何度もEさんに怒られていた。

たった五分休憩をとってただけなのに皮肉を言われて、給料泥棒とまで言われていた。

 

じゃあ私はどうなの?

休憩時間なんていつも適当で、過ぎていても何も文句を言われたこともなければ叱られたこともない。

 

彼女を怒る彼の言葉は棘だった。

「自分がどういう状況に置かれてるかわかってるのか」

「君は休んでる暇なんかないんだよ」

「やる気がないならやめちゃえば」

 

私よりはるかに頑張っている彼女のことを褒めることもしないで冷徹な態度をとる。

 

私はそれが許せない。

頑張っている人の心を傷つけるような発言をよくも簡単に吐けるもんだ。

 

同じことを私には言わないのもわかってる。

周りは呼び出されるのに私にはデスクまで来て優しく教えてくれる。

 

それが私にとってどんなに不都合なことか彼にはわからないんだ。

私の事も例外なく呼び出して酷い言葉を吐けばいいのに。

 

そんなんじゃ傷ついたりしないから。

見返りを求められても何も返すつもりもないから。

 

うん、だから早速女性社員に嫌われ始めているのもうすうす気づいてる。

それが私にとってどんなに不都合か考えもしない、それが一番迷惑なんだって言ってやりたいのに言えない。

 

きっとそれをしたらこの職場にはいられなくなる。

それがわかってるから。

 

明日の新人歓迎会ですら行きたくない。

一日中一緒に行動しなきゃいけないんだ。

それがどれだけの苦痛になるだろう。

 

異性から好かれることはいいことばかりじゃない。

たくさんの友達を失うぐらいならそれもいらないぐらいだ。

 

散々思い知ってきたのにやり方がわからない。